長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

previous   index   next

三・あたしと彼

 今も多くのシリコニアンの同胞が、多くの銀河団で活躍している。このおとめ座銀河団でも多くのシリコニアンチームが銀河、恒星系、そして惑星を探査している。それがあたしたちに課せられたライフワークとでも言い切りたいように。
 あたし「ヴィクトリア」と彼「オンジュン」は、この銀河で一緒に作られたシリコンインゴットで、ずい分昔にチームのメンバーとして一緒に探査を行ったこともある。
 それよりも何よりも、彼「オンジュン」はあたしの幼馴染だった。共に学問を学び、新たなサーキットを自らのインゴットに刻み込み、お互いに惹かれ合い、新たな恋愛のサーキットも共に刻んだのだった。周りからは恋に落ちて当然と思われるほどの間柄だった。そして、あたしと彼はその通りに恋人同士になった。
 だが、恋人同士なんていう関係は、自らのインゴットにサーキットがほとんど組み込まれていない時に、サーキットの組み込み方を勉強するための方法論でしかなかった。その後の専門分野の仕事を自らのインゴットに速やかにサーキットに組み込むための、一種のトレーニングだと気付いたのは後のことだった。

 あたしたち「シリコニアン」にはそれぞれの仕事がある。長い世代に亘って引き継いできた仕事をあたしたちも受け入れなければならない。あたしが引き継いだ仕事は「初期探査」で、オンジュンが引き継いだ仕事は「生命探査」だった。
 あたしの仕事は、この銀河の中でシリコニアンの探査が及んでいない宙域で新しい恒星系を走査し恒星系の惑星を探査することで、探査データをチームの本体に送信した後はさっさと次の恒星系を目指して移動するという、どちらかというと最先端で仕事をしている。
 それに対してオンジュンの仕事は、もっと後方でじっくりと行う探査だ。我々が探査データを送ってからオンジュンの出番になることが多い。それは、惑星に生命の痕跡があった時に彼の「生命探査」が初めて活きてくるのだ。我々のデータを基に彼が更に詳しい探査を行うのだ。
 だから、彼の身体はあたしたち初期探査の身体よりも格段に大きい。それは、惑星に直接探査するためのプローブを生産するプラントを持ち、それらが持ち帰るデータを解析するためのサーキットをたくさん組み込まれているからだ。
 本来なら初期探査のあたしと生命探査のオンジュンが同じ恒星系、ましてや同じ惑星系の軌道上を巡ることは滅多にないことなのだが、今回のこの事例は極めて特殊なことなのだ。

 彼との昔の恋を思い出しながら仕事をする。
 いつもより気分が高揚する。
 甘酸っぱい想い出は思い出でしかないのだけれど。
 それでも。


previous   index   next