長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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四・初期探査

 初期探査には、恒星系の規模や構成、恒星そのものの性質、惑星の数や惑星の種類など様々なデータを集めるのだけれど、取り分け重要な探査項目が二つほどある。

 一つ目は、鉱物としてのシリコンの探査と採掘である。これは自明の理だろう。あたしたちの身体は金属シリコンで出来ている。しかし、いくら金属で出来ているとはいえ、GCR(銀河宇宙線)やUHECR(超高エネルギー宇宙線)に常時曝されているため、外装部分は常にボロボロの状態だ。それを防ぐためには新しいシリコン外装で補う必要があるからだ。
 シリコン探査にはもう一つ、シリコニアンという種族の存続と世代交代のためのシリコンインゴットを作成しなければならないという命題もある。いくら金属の身体とはいえ、その命は永遠という訳ではない。連綿とした積み重ねたシリコンインゴットの身体だが、そのエレクトロサーキットは老朽化し疲弊してくる。そのために世代交代は欠かせないのだ。

 二つ目は、DHMO【DiHydrogen MonoOxide(ジハイドロジェン・モノオキサイド)】の探査と採掘である。これは、一酸化二水素とも酸化水素とも称される水素と酸素の化合物で、シリコンを採取する理由とほぼ同じである。シリコンの外装を製作する段階で、また、次世代のためのシリコンインゴットを制作する過程でも必要不可欠なモノなのだ。また、自分自身をリフレッシュする時にも用いるモノなのだ。
 この物質は、透明無色で無味無臭、三十二度で固体化し二百十二度で気体になる性質を持っていて、溶媒や溶剤として用いることも多く、それ故に分子単体で純粋に存在させることは難しい代物である。あたしたちは、この物質を純粋なカタチでないと利用できないために、純化プラントを持った専門のシリコニアンがその業務を受け持っている。再循環させて使用するので量的にはそれ程たくさん必要ではないのだが、それでも失われていく分だけは補う必要がある。

 そして、初期探査及びそれ以降の探査に禁止されている事項がある。それは『生命の存在には手を出すな』という禁則事項だ。いかなる状態でも生命の痕跡及び生命そのものを探知した場合には、マニュアルに沿った手順を踏んで探査だけを行い、最終的には元の状態に戻して必ず撤退せよというものだ。これは、あたしたち「シリコニアン」だけがこの宇宙に生きている訳でないというシリコニアンの一種の謙遜なのだ。確かに長く生命をつないでいるシリコニアンだが、今の宇宙の生命は炭素の時代である。それをシリコニアンは十分に認識している。あくまでそれはシリコニアンの自惚れかもしれないけれど。

 そして今回、あたしが初期探査として派遣された恒星系は実に興味深いモノであった。


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