長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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五・全球凍結

 あたしはオリオン腕の片隅で仕事をしていた。
 そのオリオン腕の片隅に、暗黒星雲に取り囲まれて守られていた未発見の恒星系群を発見したのだ。
 その宙域は、銀河の中心からアームに向って吹き荒れる激しいGCR(銀河宇宙線)や銀河の外から降り注ぐUHECR(超高エネルギー宇宙線)から覆い隠すように暗黒星雲が広がっており、その暗黒星雲によって守られた、完全に純粋培養されたような恒星系がいくつかあったのだ。
 こんなに濃度の濃い暗黒星雲も珍しいが、その暗黒星雲がシェルのような構造になっていて、そのお陰で内部は完全な無風状態、UHECR(超高エネルギー宇宙線)はほとんど観測されなかった。

 暗黒星雲の中にある、いくつかの恒星系の中でもあたしが注目したのは、シェル状の暗黒星雲内部のちょうど真ん中に位置する恒星系だ。
 その恒星系は、更に全体が微惑星や氷の塵に守られいて、ちょうど繭のようになっていた。内部構造は繭状のバリアに至近距離で近寄らないとリモートセンシングが出来なくて苦労したが、その恒星系内部には四つのガス惑星が廻っている一つの恒星系を成していた。
 四つの惑星の内側の軌道にも小さな岩石惑星がいくつか廻っていて、小さかったが他の恒星系には見当らないほどクリーンな空間だったので、恒星系外からそれが判明したのだった。

 その内部の岩石惑星の中で、主星の内側から数えて三つ目の惑星は、驚いたことに「全球凍結」をしていたのだ。全くにもってDHMOがこんな風にほぼ純粋な形で存在するとは、あたしはなんて運がいいのだろうとさえ思った。おまけに、この三つ目の惑星をセシングすると、その惑星の地殻にはかなりの濃度でシリコンが埋蔵されていることも判ったのだ。
 あたしが探査データを送ると、チームのメンバーは興奮しまくり、まさしく奇跡だとか、これを奇跡と呼ばずに何をそう呼ぶのかとまで言い切る輩までいた。「そこまで言わなくても」とあたしは思ったが、あたしも正直に言って興奮していたのだ。主要な探査目的の二つが同時に得られる機会はかなり珍しいことなのだから。

 普段流れない身体の部分にも電流が流れ、身体全体が痺れるほどの電圧を、あたしは久々に感じた。しかし、その興奮に浮かれていてはいけない。慎重に探査を進めなければ。「こういう場合、何かしらの問題や障害が発生してくるものなのだ」と、八代前のお爺様の危険予測プログラムが囁いていた。


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