長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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六・第三惑星

 あたしはこの恒星系の探査を進めながら、一番内側の一番大きなガス惑星の軌道を越えて恒星系の内側に入り、全球凍結して白く輝く第三惑星をテレスコープで確認した。
 惑星の直径が主星のそれの百分の一ほどしかないこの第三惑星はひどく小さく思えた。しかし、恒星系を詳しく調べると、ガス惑星にも全球凍結した衛星の存在を確認したが、第三惑星に比べればかなり小さい。だから、あたしはターゲットを第三惑星に定めた。
 どうやら、主星の活動が長期の低迷期に入っていて、第三惑星の軌道はDHMOが液体として存在出来る熱量範囲から少し外側になっていて、主星から受け取る熱量が不足したために惑星の大気内のDHMOが全て固体化して全球凍結しているようだった。

   あたしはいつ通りのルーチンワークで、自分のボディを惑星の周回軌道へと投入した。
 惑星軌道に乗ってみて分かることはたくさんある。この第三惑星の大気層はかなり厚いこと、大気層の表層には畜電層があること、惑星の磁力による美しい帯がかなり大きくていくつもあること、それによって主星からの放射線や粒子を阻止していることなど、恒星系外からの影響がほとんどないことが、これだけの微妙な美しい世界を作り出すのだとあたしは感動したのだった。
 特筆すべきことは、この惑星を巡る一つしかない衛星だ。不釣合いな惑星と衛星とか不釣合いな主星と惑星の関係はこれまでもたくさん見てきたが、この絶妙なバランスには驚かされた。お互いに影響を与えていることに間違いないだろう。衛星は不毛な岩石衛星なので探査は後廻しにした。

 センサー系のサーキットに電源を投入して第三惑星の探査を開始した。第三惑星を百ミ二ットで周回する軌道で、レッドレイ、グリーンレイ、パープルレイでの走査はもちろん、磁力、重力での偏向走査も行い、多角的多面的に第三惑星を調査した。もっともこれはいつものルーティンワークでしかないのだが。
 第三惑星の見た目は全体が真っ白だった。乾燥のために砂漠化して大地が露出した部分は黄褐色だが、その他の大部分はDHMOが白く反射していた。
 固体化したDHMOの厚みは場所で違っていた。地殻の標高が高い部分では地殻部分まで、標高の低い部分では比較的厚みが薄く、その下には液体のDHMOが存在していた。先ほどの不釣合いな衛星の潮汐作用のせいもあるが、惑星の中心核は今だに温度が高く、そのためにDHMOの深層部分は固体化していないのだろうと思う。
 地殻まで走査の手を伸ばすとお目当てのシリコンが見つかった。しかし、その組成は酸化シリコンがほとんどなので採掘後の加工に関しては少々手間が掛かりそうだった。

 残念ながら、地殻からその下の内部については軌道上からの走査ではDHMO層が厚過ぎて難しかった。どのみちプローブを投下して調べなければならないのだけど、そのプローブを降ろさなければならない最大の理由は、DHMOの層と地殻の層との境界面に『ノンナチュラルストラクチャー(NNS)』を発見したからなのだ。このためにあたしの仕事は見事に停滞させられてしまったのだ。


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