長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品 |
七・NNS 「チームへの報告は見たよ。惑星全体にNNSが分布しているんだって? 最新の詳しいデータを見せてくれ」 オンジュンはあたしに呟いた。 「今、転送するわ。リモートセンシングデータしかないけど。あたしにはこれ以上詳しく解析するプログラムが搭載されていないから」 あたしは回路を開いて、オンジュンにデータを渡した。その時、懐かしいオンジュンの香りがフィードバックしてきた。 「どうした? 何をボーっとしている?」 あたしはオンジュンにそう言われて気が付き、電圧をちょっと上げてしまった。 「あ、いえ、何も」 あたしは照れ隠しに昔話を持ち出した。 「昔はよくお話をしたわよね」 オンジュンは優しく応えた。 「あぁ、懐かしいね。時々ヴィクトリアが恋しく時があるよ」 「え、ホント? 嬉しいわ」 あたしは更にボルテージを上げてしまった。ラブサーキットにはさっきから大電流が流れっ放しになっているし。 「おいおい、ヴィクトリア。身体がピリピリするよ。電圧を抑えて」 オンジュンの冷めた言葉に、あたしはラブサーキットの電源を切ろうかと思った。 「もう、オンジュンのイジワル!」 「ごめん。でもホントに回路がピリピリしてシュートしそうだったんだよ」 そう言って、オンジュンはあたしを慰めてくれた。 「どうやら、これは『クリンカー』だな。CaO、SiO2、Al2O3、Fe2O3、そしてDHMOによる水和反応による硬化物だ。電磁波と重力を組み合わせた偏向探査で物質が特定できる」 オンジュンはあたしのデータに加えて、オンジュン自身のセンサーでこの第三惑星を探査したようだ。それにしても、これはあたしには無い機能だ。ちょっと羨ましい。 「それに、この物質は文明を持っている生命体に時々見られるモノで、これでホントに『建物(ストラクチャー)』を作っているんだ」 「なに、それ?」 オンジュンは丁寧に説明してくれたが、あたしにはチンプンカンプンだった。あたしにそんなサーキットは搭載されていないので、そのこと自体を理解することさえも不可能だった。 それでもオンジュンは、あたしに解説をしてくれた。 「この概念は難しいかもしれないが、生物たちは居住場所を必要とするんだ。強烈な宇宙放射線から我々のボディを守るためにシリコンの外装をまとう様に、厳しい惑星の自然環境から彼らの柔らかい身体を守るために、そういった『建物』を造ってその中に逃げ込むんだよ」 「ふーん」 何となくだが、あたしは理解した。 「軌道上での探査はこれが限界だな。プローブを投下しよう」 オンジュンの言葉にあたしは驚いた。生命の痕跡に対しては完全撤退が絶対命令のはずなのに。 「これも探査のうちだ。我々は生命の痕跡並びに生命体を調査することもライフワークとしている。だから探査しないで撤退することは、逆に服務規程に反するんだよ」 「そーゆーモノなの?」 あたしは初期探査しか知らない。だから、オンジュンの言葉は新鮮だった。 「大丈夫だよ。僕のプローブは電源を切ると同時に爆破消滅するように出来ている。僕のような『生命探査』が仕事の場合は特にね。それに君が持ってるプローブでは役不足だし、君が持っているプローブの数を減らすとこの先、別の恒星系を探査するのに支障を来たすから、僕のプローブを使うよ」 あたしはイエスの信号を送って、オンジュンに従った。ここからはもうオンジュンの仕事の領域だ。下手に口出しする必要は無い、とあたしは判断したのだ。 |