長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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八・プローブ投入

 オンジュンのプローブは、第三惑星の広範囲に投下された。ただし、オンジュンのプローブの数も限られているため、最小限で最大の効果が得られるであろう地点を選りすぐる必要があったが、オンジュンのアバウトさにあたしはビックリしてしまった。
「よし。この四ヵ所くらいでいいだろう。必要なら後でプローブを追加すればいい」
「そんなのでいいの?」
 あたしが懐疑的な意見をボソリと呟いたら、オンジュンはあたしにビクッとする電圧を送ってきた。
「いやん、何をするの!」
 あたしがプンと怒ると、オンジュンから優しい信号が流れた。
「投資は少ない方がいいんだ。無駄なデータを拾う必要もない。初期探査で差異が見られる地点だけで十分だよ」
 あたしは納得した。
「なるほどね」
 プローブを投下したのは、特にNNSの反応が顕著な地点に一つ、NNSの反応がほとんどない地点に一つ、下層に液体のDHMOが存在する地点に一つ、そして乾燥して大地が露出している地点に一つの、合計四ヶ所である。乾燥した場所には難着陸タイプのプローブを、その他は発熱ドリルでDHMO層に潜るタイプのプローブを使用した。
 オンジュンが軌道上から投下地点を通過するごとに順次、プローブを射出した。プローブ着陸からDHMOに潜行させるまでのオンジュンの仕事振りをじっくりとフックしてモニタしていたあたしは、その手際の良さに感心してしまった。
「さすがはオンジュン。見事な仕事振りね」
 あたしは思わず、オンジュンに賛辞の信号を流した。しかし、オンジュンは極めて冷静だった。
「これくらいは朝飯前だよ。僕には専用のサーキットが組み込まれていて六十四個のプローブまでは楽勝で制御出来るぜ。……さて、そろそろテレメータが上がってくるよ」
 あたしは羨ましいやら悔しいやら、複雑な気持ちになった。
 あの頃のオンジュンとは全然違う。
 彼はたくさんのことを吸収しているんだ。
 それに引き換え、今のあたしはどうなの……。
 そんなことがふと思考回路を横切った。
 それを察したのか、それともあたしをモニタしていたのか、オンジュンはあたしに優しい言葉を掛けてくれた。
「これが僕の仕事だから、手際良くなきゃおかしいでしょう。君だって未知の探査領域に侵入して探査するためのサーキットを持っているじゃない。だけど僕はそれを持ってない。ヴィクトリア、無い物強請りするなんて君らしくないよ」
 オンジュンにそう言われて、あたしは少し恥ずかしかった。
 彼の言う通りだ。
 それぞれの仕事に特化していることをすっかりと忘れてたあたしだった。
「それとも、まだ僕のことが『好き』なのかい?」
 オンジュンにそう言われて、あたしはまたまたボルテージが上がって、叫ぶように信号を流した。
「ばか!」


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