長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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九・乾燥と湿潤

 プローブからのデータは順調に送られてきた。
 オンジュンは送られてきたデータを解析してから、あたしに詳しい解説をしてくれた。
 最初は砂漠に投下したプローブからだった。
「砂丘の表層に着陸したプローブはもう既に砂の中に埋まってしまったよ」
「え、もう?」
「惑星の自転風がかなりの高速で吹き渡っていて、砂嵐がひどい。乾燥し切っている上に砂粒が小さいのでスコープによる画像はもやが掛かったようになってるよ」
 あたしは、触れたことの無いデータに心が躍っていた。
「砂の成分は、ほとんどがSiO2だ。もったいないなぁ。これだけのシリコンがあれば、新しいインゴットがどれだけ制作出来ることか」
 オンジュンは残念そうに語った。
「仕方がないわよ、そればっかりは」
 あたしも信号のトーンを下げた。
「大気中のDHMOを検出しているのだが、数値には出ないレベルだ。かなりの乾燥状態だ。砂の粒子も小さいから、ここはいつでも砂嵐だ。……ここはこんなデータで充分かな」
 オンジュンは、砂漠のプローブから送られたデータをメモリバンクに転送した。

「次は、NNSの反応がないところだ」
 オンジュンの報告に、あたしはかなりワクワクするようになっていた。
「およそ三カイメルのDHMO層を潜って惑星地表面に到達。地表面は、岩石が風化して生成した粗粒の無機物と生命体活動の影響を受けた炭素系物質の混合物で覆われているな」
 オンジュンの報告にあたしは戸惑った。
「それって、何なの?」
 オンジュンは優しい電圧で語り掛けてきた。
「うーん、説明するのが難しいなぁ。惑星が風化して細かくなった岩石と生命体の排泄物とか腐敗した生命体が混合している物質で惑星表面が覆われているってことだ。生命体が存在していた惑星の地表面は往々にしてこんな状態が多いね。惑星自体に生命体の痕跡がアリアリと残っているという訳だ」
「ふーん」
 あたしは分かったようなフリをして相槌の信号を送った。
「これでも充分に生命体の痕跡として科学的には成立するけれど、これだけで撤退とは決められないんだ」
 オンジュンは、ニヤリと笑ったというニュアンスの信号を送り返してきた。
「へぇ、そうなの」
 あたしは興味津々だった。
「その惑星に残存している生命体がその後に文明を再生する可能性があるかどうかで撤退の判断をするんだ。だから撤退の閾値は結構高いんだよ」
「何でもかんでも、痕跡があればいいってモノじゃないのね」
「あぁ、その通りさ」
 あたしはオンジュンの説明に一々納得した。
「それじゃ、撤退の原因となるかもしれない、問題のNNS反応過多の地点に投下したプローブのデータを解析しよう」
 プローブの解析が進むに連れて、あたしの電流と電圧は交流のように上下していた。


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