長い冬の一日 ペンギンフェスタ2012 競作部門 参加作品

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十・都市と痕跡

「それでは探査開始だ」
 NNSの反応が顕著な地点に投下されたプローブはDHMOを融かしながら進んで、既に地表面に到達していた。
「ここに投入したプローブは特別の仕様になってるんだ」
「さっきのプローブとどう違うの?」
「DHMOの中を移動できるようになっている。さっきのプローブは先端に発熱体があるだけだけど、こちらのプローブには全方向に発熱体を配置してある。それだけのことだけどね」
 オンジュンはニヤリと生ぬるい信号を流してきた。
「いろいろと探査できる訳ね」
 あたしは相槌の信号を送り返した。

「NNSに接近してみる」
 オンジュンはプローブのスコープをオープンにして画像データをあたしに転送してくれた。真っ白な画像からグレー色に変わり、やがてゴツゴツとした灰色に四角い穴が開いた壁面が現れた。
「これが『NNS』なの?」
 あたしはおずおずと尋ねる。
「あぁ、そうだよ。これが『クリンカー』だ。四角い穴は『マード』と呼ばれる、一種の空気穴みたいなものだな」
「ふーん」
 説明してくれるオンジュンに、あたしは頷く信号を送る。初めて知覚するものばかりで、あたしのボルテージは弥が上にも上昇するばかりだ。
「DHMOの層がかなり分厚くて、その重量が圧し掛かっているからほとんどのNNSは崩れ落ちているな」
 オンジュンは画像だけでなく、重力と電磁波での探査も同時に行っているようだった。
「NNS内部には細かい段差がある。このNNSは二足歩行の生命体が作ったという証拠になるんだよ」
 確かに、パルス波がどんどん積み上がったような形がくっきりと見えている。
「あたしには驚くことばっかりよ。そんなこと、あたしの探査では解らなかったわ」
 あたしがそう言うと、オンジュンは軽い否定的な信号を送ってきた。
「そんなことないよ。僕は君から受け取ったデータで既にこのことは推定出来ていた。君の探査精度は充分だけど、それを解析するプログラムが無きゃそんなもんさ」
 褒められてるのか、それとも貶されているのか、あたしには判断出来なかったので何も返事をしなかった。

「マードとNNSの階層構造から分析すると、この文明を構築した生命体の大きさはおよそ『二メル』くらいかな」
「結構大きいわね」
「そうだね。でも、このグラビティで文明を築くにはこれくらいのサイズがちょうどいい、というデータは持ってる。文明を築かなかった、この惑星の生命体の種類にはこれよりも大きな モノがいたかもしれないしね」
「そういうデータを持ち合わせていないから、とても新鮮に感じるわ」
「面白いだろ?」
「うん」
 あたしの思考回路には『恋』というプログラムが起動し始めていた。


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