鬼島津ネット・「Dan_Qei's Novels」
『リア充しましょ』 第七回夏祭り競作参加作品
 
001「海水浴オフ会」 【藤田 柚有華と山家 浩の場合】
  
 青い空が眩しくて暑いわ。
 日差しが熱くて容赦なく肌に突き刺さるの。
 蒼い海が照り返す紫外線がジリジリと私の肌を焼く。
 潮の香りが心地良く鼻をくすぐるの。
 そう、私は今海水浴場に居るわ。
 海水浴なんて久し振り。
 ひょっとしたら中学一年の時に親と来た以来かもしれない。
 今回は親と一緒じゃないわ。
 私だってもう大人だもん。
 だけど、彼と二人きりって訳じゃないの。
 残念ながらね。

 男の人が五人。
 山家 浩(やまいえ ひろし)さんとその他四名。
 そして女性は二人。
 私と高校生の女の子。
 え?
 なんてざっくばらんな紹介なんだって?
 仕方がないわよ。
 だって、私の目的は「山家 浩」さんなんだもん。

 仕方ないわね。
 もう少し説明すればいいんでしょ。
 私たちはネット小説の仲間なの。
 海水浴のことがチャットで盛り上がって。
 それで「オフ会」と称する海水浴の企画が立ち上がった。
 たくさんの仲間が居るんだけど、仕事とか部活とかで参加者は少なくて。
 スケジュールが合ったのは結局、この七人だった。
 え?
 当然だわ。
 そんなこと、訊くまでもないでしょ。
 そう、その通りよ。
 このために私は強引にスケジュールを合わせたわ。
 それは無理矢理と言ってもいいわよ、ふふふ。

 彼、山家 浩さんは、公募で大賞ではなかったんだけど佳作とかの賞を取ったの。
 それで記念すべきデビュー作が出版されたって訳。
 読書用と保存用、そして初版本と第二刷本も買ったから、私は合計四冊も買っちゃったのね。
 もっとも、私はそれ以前から彼の書く小説が好きだったのだけれど。
 彼の持っている知識にいつも圧倒されてしまう私。
 キャラもキラキラ、活き活きとしててウットリするの。
 時々やらかす面白くないギャグも大好き。
 ネット小説の投稿は欠かさず、毎回読んでたわ。
 彼は知っているかどうか分からないけれど、私は全てのテクストを保存してるのよ。
 今ではプロとして活躍し始めたので、ネットへの投稿は減っている。
 それが私には少し寂しいかな。
 だけど、それも致し方ないって諦めている。
 だって、彼には文壇で羽ばたいて欲しいもの。

 これ程までに彼、山家浩さんのことが好きな私だけど、実は彼の実物を見たことがないの。
 出版社のイベントがあったらしいけど、私が知ったのはイベントが終了した後だった。
 その時は、地団駄踏んで悔しがったわ。
 私のその姿を見た会社の同僚は、白い目で見ていたけれども。
 だから、私はこの「海水浴オフ会」は死守しなければと思ったのよ。
 えぇ、彼、山家 浩さんに逢うためなら手段は選ばないわ!

 でも、私は過剰な期待はしていない……つもり。
 そりゃ、イケメンであることに越したことはないけれど。
 ほら、よく言うじゃない。
 これってコトワザだったかな?
 「天は二物を与えない」って。
 だから、普通のヒトならそれで充分です、はい。
 それでも、私のどこかで期待をしている。
 ネットで彼は「ブサイクですから」と連呼するのは照れ隠しに違いないと。
 ホントは無茶苦茶イケメンだったりして。
 キャーッ!
 思わず顔が赤くなってしまったわ。

 今日、待ち合わせの駅で初めて「山家 浩」さんを見た。
 気さくに声を掛けてくれた山家さん。
 あら、やだ。
 そうですわよん。
 私が『藤田 柚有華(ふじた ゆうか)』です。
 分かりました?
 やっぱり私だって分かりましたか?
 ……あ、そっか。
 ちぇ。
 もう一人の女は高校生だったわね。

 思ってたよりは悪くないわ、山家さん。
 ハリー・ポッターのようなメガネが、ちょっと知的に感じさせてくれる。
 デブじゃないのもポイント高いわね。
 それに腕は細いけど浮き出た血管がたくましさを充分に感じさせてくれる。
 ちょっと唇が厚いかな。
 それ以外の顔の造りは、まぁ合格かな。

 その他四人のうちの一人がワンボックスカーで乗り付けて、総勢七名が乗車。
 私は目ざとく山家さんの隣へ。
 その他四人のうち三人は女子高生に関心がある様子。
 残りの一人は私にしつこく話し掛けるけれど、話半分で。
 山家さんは周囲に気を使っているようで、言葉が少なめ。
 やっぱり、女性と話をするのは苦手というのはホントなのかな?

 私の水着は、イエローのフラワーモチーフのレースファブリックでホルターネックのビキニ。
 水着の上に、ブラックのアームホールが広めのラウンドネックショートノースリーブを着る。
 なかなか大胆なスタイルで、ちょっと頑張っちゃった。
 女子高生はちょっとぽっちゃりだから、白と黒の細めのストライプでワンピース。
 しかも胸にはピンクのフリルがいっぱい。
 ふふふ、勝ったわ!
「さぁ、行きましょ」
 女子高生相手に勝ち誇った笑みを浮かべながら声を掛ける私。
 そして颯爽とビーチへと飛び出す。
 山家さんとその他四人は、もうすっかりビーチパラソルを立てて待っていた。
「遅くなっちゃってごめんなさい」
 山家さんとその他四人に声を掛けた。
 ピンクのカラーテンプルサングラスを掛けて。
 そして、オレンジのクッションビーチサンダルを履いて。
 更に、ホルターネックでイエローのビキニが決まっている私。
 私を見て彼ら五人の動きが一瞬止まったことを、私は見逃していないわよ。

 波打ち際でビーチバレーをするという、その他四人と女子高生。
「ごめんなさい。私、苦手なのよね」
 とかなんとか言って、照れる山家さんとビーチパラソルの下で私と一緒に座る。
 波の音だけが聞こえる時間が長い。
 長過ぎる。
「意外と無口なのね」
 私は攻勢に出る。
「創作の話なら、湯水のようにあふれてくるのに」
 顔を赤くする山家さん。
 かわゆい。
 やっぱり、惚れちゃいそうだわ。

 午後になって、大きな雲がもくもくと湧いてきた。
「見て。大きな雲よ」
 一緒に泳ぐ山家さんに、私は声を掛ける。
 照れる山家さん。
 まったく、もう。
「ねぇ、一つ訊いてもいい?」
 私は唐突に質問を投げ掛ける。
 山家さんはキョトンとする。
「私と山家さんは友達よね?」
 うなずく山家さん。
 私は口元に笑みをこぼす。
「私たち、もう少し親密なお友達になれないかしら?」
 私の言葉に山家さんは溺れかけた。
「だ、大丈夫?」
 私は思わず山家さんに手を差し伸べる。
 すると山家さんは私の手をギューッと握った。
 本当に溺れそうになったみたい。
「大丈夫よ。遠浅だから足が立つわよ」
 私にそう言われて立ち上がる山家さん。
 しばらくそのまま立ち尽くしていた。
 けれど、私の手をガッシリと握っていることに気が付く。
 そして、あっという間に手を引っ込めた。
「照れなくてもいいわよ。私は嬉しかったのに」
 再び、攻勢に出る私。
 引っ込めた山家さんの手をもう一度、今度は私が握った。
「さぁ、みんなの所へ戻りましょ」
 私は山家さんと手をつないでビーチパラソルへと歩き出した。

 帰りは行きと同じく、その他四人のうちの一人のワンボックスカーで相乗り。
 朝の集合の時に待ち合わせた駅で解散。
 だけど、私はみんなが居なくなったのを見計らって山家さんを追い掛けた。
 そして、山家さんの腕を捕まえて立ち止まらせた。
「ねぇ、昼間の海でのこと、憶えてる?」
 私は満面の笑みで尋ねる。
 日焼けで赤い顔を更に赤くした山家さんはコクリとうなずく。
「憶えていてくれたのね。嬉しい」
 私は胸の前で手を組んで喜んでしまった。
「じゃ、今度は二人だけのオフ会をしましょうよ」
 私の言葉にキョトンとする山家さん。
「鈍いわね。デートしてってことよ!」
 私はそれだけを言うと、振り向いて歩き出した。
 少し歩いてから振り返った。
「近いうちにDMを送るわね。約束よ!」
 私は手を振った。
 山家さんも手を振ってくれた。
 それを見た私は、急に恥ずかしくなって走り出していた。
 恥ずかしさで顔を赤くしながら。
 だけど、口元は思いっきり笑って。
 ふふふふ……。
     
 
夏祭り
第七回夏祭り競作企画

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